SHIN'S ESSAYS(エッセー集)

2002年 5月 13日 (月)

NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(9)

■ NHKの新番組 
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。

「寄り合いも仕事のうち?」

「寄り合いも仕事のうち」。さくらのホームステイ先、沼田家の長男、健一が何 かと理由を付けては家から出ていくシーンがありました。今回はこの言葉から 日本人が米国・南米でどのように評価されているかなどの「移民問題」に簡単 に触れてみたいと思います。(南米での体験はぼくのサイト 「http://members.tripod.co.jp/smine/index.html」のエッセー中にあります。)

確かに昔から日本人働き者と言われていました。しかし、最近アメリカにはも っとよく働く人たちがアジアから移民してきて、チャンピオンは日本人ではな くなりました。ぼくの感じでは韓国人が一番の働き者で、次にベトナム人かも しれません。(韓国の人たちがよく働きお金を貯めるので、91年3月に起きた ロス暴動では大変な目に遭ったことはご存じだと思います)。

まだ貧乏な日本だった昭和初期。外貨稼ぎもあったのでしょうが、むしろ「口 減らし」政策で日本は国民に移民を奨励しました。当時、外国に行くというこ とは「いったん祖国から出た限り、外国で骨を埋める」という覚悟だったので す。また、日本人として強い「愛国心とその誇り」をだれもが持っていました ので、「外国人になんかまけるものか」という意地もあったのでなおさら頑張り ました。

つい最近ハワイ出身の日系3世の方と知り合いました。その人が、 「お見合い写真を修正していたり、若い頃の写真をお互いに送りつけていたの で船がハワイに着いてもなかなか見つけられなかったそうよ」と言われていま したが、映画にもなったこんな笑い話のような事も夢のまた夢です。

今は、そういう先祖の涙ぐましい努力のおかげで多くの日系人は裕福になりま した。(いつかぼくのドミニカ体験をお伝えできればと思いますが、移民40年 ほどで飛行場ができるほどの土地をもつ友人もいます。)そして世代が進みアメ リカ社会にとけ込むにつれて過去の勤勉ぶりは平均的なアメリカ人並になった と言われています。

ロスの高校で社会を教えていたリチャード。彼いわく、
「25年ほど前の日系人 はよく勉強したね。頭が良くて、目が輝いていた。でも、私が退職するころは まあ一般的なアメリカ人よりちょっといい成績を取るくらいになっていて、同 じ日系人でもこんなに変わるものかと驚いたことがあるよ」
と正直に話してくれたことがあります。

最近は、日本人よりもアメリカ人の方がよく働くのではないかとぼくは思い始 めています。理由がいくつかあります。

1)日本の方がアメリカより連休(休日)が多い_20数年前はアメリカ人が 長い休暇をとれるとうらやましがったものですが、実は法律で許された範囲の 休暇を取っているだけで、有給休暇の日数は日本と対して変わらないと思いま す。会社の休暇を取るシステムが日本より緩やかな部分があるので、休暇をた めておいて一度に2週間くらいとる人がいます。そのあたりが長く休んでいる ように思われるようになったのかもしれませんね。

2)残業の考え方_本当にしないといけない仕事があるから残っている人もい ますが、基本的には時間通り退社します。今は経済が停滞していますので、若 干事情が違うかもしれませんが、アメリカでは残業をしないように心がけ、残 りの仕事は明日というわけです。でも、平均睡眠時間4,5時間という強者が アメリカにもいますが、そういう人は新しいビジネスをスタートし、マスコミ に取り上げられるくらいの成功者です。

3)休日に職場の人たちやビジネスで家族抜きでつきあうケースは非常に希。 _健一が「寄り合いも仕事のうち」と何かにかこつけて外出します。(実は健一 がなぜ夜頻繁に外出していたのかたまたま見られませんでした。どなたか教え て下さい)。日本の場合はゴルフが一番多いようですが、もしアメリカでこんな 理由で頻繁に家をあけていたら確実に離婚ですね。ここでぼくが何をいいたい かといいますと、「仕事だから」といいながら、実は自分が楽しみたいために外 出しているケースが多いのではないでしょうか。それを「よく働く」と言い換 えているか勘違いしている部分があるのかもしれません。そういう意味からア メリカ人は日本人よりも怠け者というステレオタイプ的な考え方はもう古いで しょうね。

とにかくアメリカは家庭優先。大統領選挙のとき、必ず大統領候補者の奥さん から子ども、ペットまで登場することがあります。あれは計算ずくの演出で、 「ほら国民の皆さん、わたしは家庭を大事にする善良な人間です」 とアピールしているわけです。家庭不和な大統領候補は国民が信用しませんの で、大統領にはなれないでしょう。ただし、クリントン大統領のように大統領 になった後の不祥事は別ですが。

「さくらちゃんって呼んでも言い?」と健一の長女、佳奈子が尋ねてOKにな るシーンがありました。ぼくはこのシナリオを書いた作者の文化的な配慮に感 心してしまいました。本当に些細なことなのですが、ここに大きな異文化問題 が横たわっているからです。

実は長い間海外生活をしていたせいでつい忘れて、日本で大失敗をしたことが あったのがこの名前の呼び方です。アメリカでは、特にフレンドリーな西海岸 では、ファーストネーム、つまりぼくですと「慎一」で呼ばれる方が当たり前 で、ラストネームの「峯」で呼ばれるのは何かの勧誘電話の時くらいです。と もかく、幼少の頃つけられたニックネームで死ぬ まで通し、葬式の時に始めて 本当の名前をみんなが知ったという話さえあります。

親しくなったら、例えばぼくの場合なら正式な名前を自己紹介した後、「Call me Shin」(シンと呼んで下さい)と言うのが普通です。(ただし、東海岸はそうでは ないかもしれないのでご注意ください)。ビジネスでもよく初対面からファース トネームで呼び合うことがあります。また、ニックネームを使うのが好きな国 民ですから、例えばウィリアムはビルとなります。有名なマイクロソフト会長 の本名はウィリアム・ゲーツ・ジュニアです。マスコミもビルというニックネ ームで彼を扱いますが、こんなところにも日米の呼び方の文化的な違いが見ら れて面 白いですね。ちなみに、ビル・クリントン前大統領も同じようにニック ネームで通 しましたよね。

そこで、ぼくの失敗です。7年ほど前の話です。日本で漫画家として名前の知 られた方とあるパーティでお会いしたとき、ついこのアメリカ的な習慣で名前 交換をしようとしてしまったのです。きっと失礼な奴だと思われたことでしょ う。また会いましょう、と別れたのですが、2度とお会いすることはありませ んでした。アメリカでは友達に芸術家、大学教授、サラリーマン、弁護士、医 者など様々な職業についている人たちがいますが、初対面からファーストネー ムで呼び合うのが当たり前だったので、日本では気をつけなくてはならないと 今はとても注意して人に会います。

名前といえば、次のような話もアメリカ人の気さくな性格が分かる逸話として 面白いかもしれません。ハリウッド映画俳優でロバート・パトリックという人 がいます。彼はシュワルツ・ネッガー主演の「ターミーネータ2」で、怖いロ ボットの悪役を演じて有名になり、今はテレビシリーズの新「Xファイル」で 準主人公役で出ています。

このロバート・パトリック主演の「Fire in the Sky」(1993年)という映画に ちょい役で出たことがありました。ロバート・パトリックが最初にとあるモー テルに宿泊しているシーンを撮ったあと、ぼくが日本人のレポーター役でその モーテルの前を「こんなへんぴな所には寿司屋なんかないだろうなあ」と日本 語で言って大笑いしながら歩いていくというシーンがあったのです。映画の中 ではわずか5秒あるかないかの短いシーンですが、それでも2回の取り直しで 2時間ほどはかかりました。ロバート・パトリックは自分の出番が終わって、 ぼくのシーンを見てくれていたのです。

撮影後、ロバート本人がぼくの所にやってきて、「いい笑い声だったね」とねぎ らってくれました。ぼくがアメリカ流に「Call me Shin.」と自己紹介するとそれ からはずっと「Shin」と撮影中は呼んでくれました。その時ロケを見に来ていた 当時大学生の長女をロバートに紹介したのですが、数週間後その娘が通 うオレ ゴン大学へサイン会にやってきたとき、娘をおぼえていてくれて、ぼくたち一 家が関西から来たことを知っていたロバートは、長蛇をなして彼のサインをま っている学生たちなど忘れたかのように、「私は大阪に行ったことがあって、 『おおきに』という言葉を知っている」と思い出話のちょっとした披露会とな りました。そのやりとりを見ていて事情を知らない大学生たちは「なぜあの東 洋人がロバート・パトリックと知り合いなの?」とびっくりしていたそうです。

話はちょっとそれますが、日本でまた話題となっているスピルバーグ監督の 「ET」のエリオット役をしたヘンリー・トーマス君もその映画に出ていました。 9年前の話なので彼はもう今は30歳近いと思いますが、まさか「ファイアー・ イン・ザ・スカイ」でいっしょになるとは知らなかったので、どこかで見た青 年だなあと思っていたらトーマス君でした。
「ぼくは君の出演したETを何度も子どもたちと見たけれど、ずいぶん大人に なっているので驚いたよ」
と心底驚いて言うと、本人は 、
「もう20歳ですよ」 と笑いながら 「それに結婚して子どももいるんです」
と聞いてさらにびっくり。あのおチビさんがこんなに大きくなっているのかと ぼくの体内時計があっという間に過ぎたような気分になったものです。

アメリカにいると、こんな考えられないような面白いことがあります。では、 今日はこのへんで。


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