SHIN'S ESSAYS(エッセー集)

2002年5月9日(木)

NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(7)

■ NHKの新番組 
NHKの番組「さくら」には日米の異文化現象がたくさん。長年海外に住むと日 米間に横たわる不可思議な違いを発見します。そんな話題を番組の中から拾ってお話しします。

「教授とエダマメ」

ヒロインさくらの家庭訪問は続きます。家庭訪問というシステムはアメリカに ないことを前回話したので、ここではそれ以上触れませんが、あのシーンで日 本の高山の町中にある日本独特の風景と番組そのものについて面 白い発見がい くつかありました。

みなさんには当たり前となっている日本各地にある道路のミラー。実はあれ、 アメリカにはありません。日本に2年ほど住んだことがある友人は、「あの日本 のミラーは賢いわね」とパーティーで大勢のアメリカ人にさも自分が作ったか のように自慢話をしているのを聞いたことがあります。

日本の道の狭さには外国から来た人は一様にびっくりしますが、その道を普通 車が通っているのにさらにびっくり。そして、お互いに譲り合うことにさらに 関心します。これは久しぶりに日本に帰ってきた日本人のぼくでも「ああ、こ の精神は美しいなあ」といつも思うほどです。

現在、仮住まいをしているここ逗子市も漁港近辺にありがちな狭い道がくねく ねしています。アメリカにある道路はほぼどこでも直線で軽くここの倍以上は あるでしょう。逗子に住みはじめた当初は、まさかこんな道で車が2台離合す ることはないだろうと思っていました。でも、これはまったくぼくの認識不足。 みんな上手によその家の車庫にちょっと入ったり、バックしたり。不思議なこ とに、たった数ヶ月住んだだけでそれなりに広く感じ始め、人間の空間認識の いい加減さに驚いています。それともこれはぼくだけの独りよがりな感覚かも しれませんが…。

車で思い出しました。日本中共通していて、アメリカにはまず見られない車庫 入れ逆現象があります。日本ではほとんどの人がバックで入りますね。みごと なものです。しかし、アメリカは逆。とにかく何の躊躇もなく頭から入るのが 「常識」なのです。ぼくは車庫や駐車場の広さがその理由だと思っていたので すが、実は一般 的に運転技術が信用されていないからのようです。

ある日、日本人留学生が「バックして駐車したら罰金を取られた」と憤慨しな がら話してくれたことがあります。どこかは忘れましたが、その女性は「バッ クで駐車しないでください」というサインに気づかず日本式に駐車したらしい のです。確かにレストランやホテルでそういうサインを見ます。プロは別格で すが、一般 的にアメリカ人は運転がへたなので駐車場での接触事故が非常に多 く、わが家の愛車も3回当て逃げにあっています。へたな理由は、あまりにも 簡単なテストで運転免許が取れるからです。ある州ではテストさえないそうで すが、この話はいつか別 の機会に書きたいと思います。

さくらが道に迷って街角を走り回るシーンが結構ありますね。あのシーンを見 ながら「ああこれはハワイで見ている日系人へのサービスも入っているな」と 思いました。衛星放送でNHKの番組を流していますし、アメリカのちょっと した町のケーブルテレビにもあります。それもコマーシャルつきで。 とくに日本の朝ドラや大河ドラマは人気があるようです。「日本恋し」と思って いる日系人にとってはたまらないのです。こんな気持ちは日本にずっと住んで いる人にはわかりにくいかもしれませんが、日本から長く離れていればいるほ ど、日本のすべてが美しく感じられるものです。望郷の念というのはいいもの ですね。

建築を専門としているオレゴン大の教授が信じられないほど日本のお寺と建築 様式に精通されていて「これこそスペシャリスト」と思ったものです。もし、 教授でなければ日本では「オタク」と言われるのかもしれませんが、とにかく 延々と日本建築美のうんちくを傾けられて、うなずく首が痛くなるほどでした。

日本の美しさ、良さはまるで空気のようなものかもしれません。空気はいつも どこにでもあるのでそのありがたみや甘みがわかりませんが、いざそれがなく て死ぬ 思いをしたら「へえ、空気ってこんなにおいしかったんだ」と分かるよ うなものです。死ぬ ような体験を2度したことがあるので言えることなのです が。

さくらが家庭訪問先で「羊羹」を食べるシーンがありました。最近はアメリカ でも中都市以上ならAsian shopがある町が増えたので、日本の食品が買えるよう になりました。でも値段が日本の倍から3倍するので、おいそれとは買えませ ん。日本食が健康にいいとテレビニュースや料理番組で報道されて以来、ブー ムとはまだ言えませんが、じんわりと日本食が庶民の間に浸透しているのは確 かです。

7年前に日本へ大学の同僚たちと講演旅行にきたことがあります。その内の 1人A教授が東京のホテルで出されたエダマメにいたく感動して、 「こんな美味しい豆は初めてだよ。何だいこれは?」 「ああ、大豆だよ」 「えっ!あの豚の餌になっている大豆!」 と仰天したのです。ぼくは逆仰天しました。まさかエダマメと豚の餌が結びつ くとは考えなかったからです。

びっくりしたA教授は日本初訪問だったものですから、見るもの聞くもの食べ るものすべてが新鮮。ですから、ある意味ではぼくにとってもどんなところで 外国人が初めてみる日本にびっくりするのか知りたいところだったのです。 その一発目がエダマメ。もちろんいっしょに日本に来ていた他の教授の驚きも あるのですが、それはいつかの話にして、このエダマメです。A教授がアメリ カの店でも売っているだろうかとしきりに尋ねるので、オレゴンに帰ってAsian shopで探しましたがありませんでした。そこで、近所の日本人びいきの友人か ら使っていない土地を借りて、そのお宅のご夫婦と一緒に大豆を作りました。

粘土質の100坪ほどのやせた畠でしたが、みごとにエダマメができました。 それも大量に。A教授のところへ妻に上手にゆがいてもらったエダマメと根っ こ付きのエダマメを添えてさっそく持っていきました。ぼくも日本にいた頃、 「ビールには枝豆」党だったので久しぶりに食べるとれとれのエダマメのおい しさに驚きながら、「ほら、豚だけにこんなおいしいものを食べさせるなんても ったいないよ」言ったものです。密かに「日本食っていいなあ」と思いながら。

エダマメは今はどのスーパーでも冷凍で売られるようになりました。畠を貸し てくれた近所の友人夫婦は「これをアメリカ中で売れば大きなビジネスにな る!」と当時興奮していましたが、もうなんとなく当たり前になってきた 「EDAMAME」と大きな字で書かれた冷凍食品パックを見るようになって、どう やらその興奮は収まったようです。


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