SHIN'S ESSAYS(エッセー集)

2002年 6月12日 (水)

NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(30)

■ NHKの新番組 
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。

「キスの慣習」

さくらの妹、ももが英語教務主任の沢田先生に「かわいい」と彼のほっぺたに キスする場面がありました。アメリカで鍛えられた今では、妻でもない女性か らほっぺたにキスぐらいは慣れましたが、最初はやはり照れるものですね。日 本ではそれをする機会も、される機会もありませんが、アメリカではこれがまったく普通 。かわいい女の子にチュウされて大いに勘違いし大いに悩む日本人留学生もいるようです。

よく映画でもあるでしょう?高校生が廊下で抱き合っているシーンが。これも 別にオーバーに演じているわけではなく、昼休み生徒達が大勢通っている廊下 で生徒がキスしている風景を見ます。やはり、シャイなぼくは一瞬ドキッとし ます。そんなカップルはステディーと呼ばれ、周りも恋人同士と認めていて寛 大そのものです。

もっと驚いたことがありました。 まだ大学院で学んでいる頃の話です。授業が終わって先に教室を出た助教授(女 性)に質問をしようと廊下に出ると、助教授がぼくのアドバイザーの教授とあつあつのラブシーンを展開していたのです。助教授は当時たぶん48歳くらい、教授は52歳くらいだったでしょうか。

ぼくは見てはいけないものを見たと思って、あわててクラスにもどりました。 クラスメートの台湾人ビクターが、
「シン、そんなにあわててどうしたの?」
と尋ねるので、無言で廊下を指さすと彼は廊下に首をだすや、
「ああ、あの二 人のこと?」
と平然としているのです。
「そうだよ。どうなってるんだろう?」
とびっくりしていると、
「あれ、知ら なかったの?あの二人夫婦なんだよ」
これにはまたびっくり。二人の名字がちがうので、夫婦とは全然知りませんで した。再婚どうしだったのです。〈それにしても、なにも大学の廊下でいちゃ つかなくても…〉。まだアメリカに渡ったばかりのぼくはこう思ったのでした。

この挨拶代わりのキスは国によってずいぶん違うので、戸惑うことがあります。 スイス人の友人ステファンはほっぺたにスイス式キスを軽く必ず3回交互に娘 や妻にします。メキシコから来ていたイサベラはアメリカ人よりも若干強いキ スを両頬にしますし、ロシア人は男同士でも唇にします。まだロシア人の男性 から挨拶されたことがないのは幸いですが。

しかし、この挨拶代わりのキスはどこまでが挨拶で、どこまでが本気なのかま ぎらわしいこともあり、人を惑わせますね。

ある夕、友人夫婦のパーティーにぼくたち夫婦も呼ばれて行ったときのことです。 テーブルに行儀良く座って出てくる料理を待っていましたら、ぼくの席から台 所が見えました。ホスト役のご主人はなにやら忙しげに食事の準備をしていま した。彼の横に近所に住む友人の奥さんが立っていたのですが、その奥さんが 彼のほっぺたにしつこくキスをしようとしている姿が目に入りました。彼のそぶりから見ても、どうもいやがっている様子なのですが、それでも頭一つ低い友人の奥さんは、だるまさんのような丸い身体を伸ばすだけ伸ばしてほっぺにチューをしようとしていたのです。彼女がふと振り向いたときぼくの目と会いました。「あら、見られちゃった」という風にニッコリ笑ってそれでチョン。もちろんだるまさんのご主人もテーブルについていて、いつでも自分の奥さんが何をしている見られるくらいの近さです。ホストの彼の奥さんも台所とダイニングテーブルの間を行き来していますので、別 にだるまさんと彼の関係が怪しいわけではありません。

今でも僕たち夫婦はその二組の夫婦と仲良くつき合い、ときどき寄り合いをしますが、今でもだるまさんはやや長すぎる抱擁とほっぺにキスをだれかれとなくしています。日本なら「二人はデキている」と思われても不思議ではない行為も日本晴れのようにさわやか、からっとしていて、ぜんぜん嫌みがないのはとてもアメリカ風ですね。

■義理人情

番組の中で、日本人の義理人情がちょっと話題になったことがあります。もち ろん義理人情は日本人だけが持ち合わせたものではありませんが、全般的に 我々日本人の方がそれを重んじる傾向はあります。一度親切にしてもらうとな んども「Thank you」を繰り返すのはだいたい日本人です。アメリカ人はその あたりはドライすぎて、ちょっと物足りないこともありますので、その中間程 度が本当は一番良いのでしょう。

その点、ラテン系、とくにイタリア系がやや日本人的義理人情があるのじゃな いでしょうか。ぼくの友人にフランクというイタリア系アメリカ人がユージー ンに住んでいるのですが、この彼は15年間関西に住んでいたために、ものすごい関西びいきでやっかいです。「関西人いがいは日本人じゃあらへん」とまで言い切る彼は、非常に義理人情のあつい人で、「まあ、飲め」と訪問者は下戸でもビール、酒、ワインぜめにあいます。それはそれは勧め上手です。彼のせいで飲めなかった酒がぼくも好きになってしまったくらいですから。 ある日、フランクの家でワインをよばれていて、フランクの歩き方が妙にぎこ ちないので、「どこか具合でも悪いの?」と聞いたら、「さっき黒沢明の『椿三 十朗』を見てたからかな。ちょっとミフネの歩き方が入っちまったのかもしれへん」と真顔で言うんです。どうりで右肩?がやや下がり気味だったわけです。58歳とは思えない無邪気な男で、無二の親友だと思っています。

追記:このフランクの奥さん、犀川京子さんが「自閉症、日だまりへの道しる べ」(学苑社、1800円、ISBN4-7614-0204-0)を今月出版されました。自閉症である長男の良く んにまつわる感動的な日米のエピソードが満載されています。ご関心のある方はぜひ一読してみて下さい。きっと自閉症をポジティブに見ることが出来るようになるでしょう。また、オレゴン州ユージーンという街の風景、人情もきっとお分かりになると思います。ウェブサイトのホームページは: http://www.citechtrans.com/kyoko/

学苑社の電話:03-3263-3817


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