SHIN'S ESSAYS(エッセー集)
2002年 6月5日 (水)
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(25)
■ NHKの新番組
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。
「アメリカ風アレンジ」
「日本人は外国のものを日本流にアレンジするのが好きなんです」とさくらが勤務す る高校の中曽根校長がいうシーンがありました。これも異文化コミュニケーションの 観点からするととても重要な発言ですね。ただ、「日本人は」という部分は「日本人も」 と言い換えても良いかもしれません。というのは、「アメリカ人も」自己流に、あるい は自国流にアレンジするのが好きなんです。ただ、校長のこの発言の真意は「日本の 英語教育」に関する発言だったので、これについては次回にふれるとして、今日は単 に「アレンジ」という言葉を取り上げて話を展開していきたいと思います。
このアレンジの話をする前に、少し前置きをお話ししておいた方が分かりやすいので、 先に「ジャパン・バッシング」のことを述べておきます。
もうそろそろ13年になりますでしょうか、そのくらい前にアメリカに住みはじめた 頃は我々日本人はみんな肩身の狭い思いをしながら住んでいました。アメリカの景気 が極端に悪く、「原因は日本人がいい商品を作りすぎて、世界の経済を独り占めにして いる」という考え方が、それはもう信じられないくらい子どもからお年寄りまで浸透 していたからです。
中学、高校の社会の先生たちの多くがまじめにそれを信じて生徒達に教えていましたから、特に中高に通 っていた娘達にはつらい時代だったようです。いつも日本人代表というレッテルを背中に貼って歩いているようなものですからね。
「先生が『今ヒットしているあの映画はコロンビア映画会社制作だけど親会社はソニ ーなので、アメリカ経済のことを考えると見ない方がいい』って授業中に話したのよ、 どう思う!?」と映画好きな高校生の長女が憤慨しながら帰宅した光景をぼくは忘れ ることはできません。
どこかのパーティーで初対面の人に、「いやあ、日本人はコピーキャットだから、我々 アメリカ人には太刀打ちできませんな」といやみを言われたことは一度や二度ではあ りませんでした。ぼくたち一家が住むところは大学中心の街ですから、日米の歴史や 経済をよく知っている冷静な人がいて、まだこれでもましな方です。東洋人など年に 数回しか見ないような田舎の方に行けば、がちがちの共和党主義者たちが大勢います から、もっと直接言われていたことでしょう。日本でも報道されませんでしたか?ど こか東部の街の議員が日本製ラジオをハンマーでたたき壊している姿を。まったく名 前を売りたいだけの大人げないアメリカ議員ですが、あの頃は暗闇でバンといつか撃 たれるんじゃないかと思ってもおかしくないほどバッシングはひどいものでした。当 時の勤務校でも、学生新聞に「日本がこれほど伸びたのは、日本には著作権がなく何 をコピーしても法律に触れないからだ。だからアメリカは大損をし失業者があふれて いるのだ」という論法で書いた生徒がいて、あきらかに当時の中国と混同しているな さけない内容でした。
ところが、日本ではバブルではじけ、それに反比例してアメリカ経済が伸び始めた9 0年代半ば、おやおや台風一過、ジャパン・バッシングのバの字も言わなくなりまし た。マスコミから「ジャパン」という文字が消えたような雰囲気でした。実に現金な ものです。ラテン系ほどではありませんが、本当に合衆国の人たちも「熱しやすく冷 めやすい」国民性をもっていることがその時よく分かったものです。
さて、そこで「アレンジ」の話です。そんな経緯があってからはまた徐々に日本に良 い意味での関心が集まってきました。「たまごっち」、「ソニープレイステーション」、 「ニンテンドー」などのハードから始まって、「ポケモン」、「ゴレンジャー(Power Rangers)」、「デジモン」、「セーラームーン」、そして今は「ドラゴンボール」と日本 製の子供向けテレビマンガや番組がどんどん広まっていきました。映画では「アキラ」、 「シャルウィダンス」、「攻殻機動体(Ghost in the shell)」や宮崎駿監督の「もののけ 姫」などをマスメディア、映画ファンが絶賛。日本人として鼻が高くなったものです。 「ゴレンジャー」はPower Rangersと呼ばれ、最初の頃は日本人の俳優達が仮面をか ぶったまま演技しているシーン、つまり日本で放映された画像をそのまま流していましたが、いつの間にかアメリカ人が入ってアメリカ流にアレンジされていました。近所の子どもたちはもう夢中です。
こんな日本ブームの復活で、食料品ではざっと思い出しただけでも「すし」は当然と して、「とうふ」、「てりやき」、「えだまめ」、「だいこん」、「カップヌードル」、「インス タントラーメン」、「てんぷら」などそのまま日本語で言っても通じるほど、(照り焼き や天ぷらなどはテリヤーキ、テンプーラと英語式に言い換えないと分かってもらえな いかもしれませんが)当たり前の風景となっています。新聞の料理欄や料理番組で「日 本食」は健康にいいと報道され、アメリカ文化が日本に浸透したほどではないにせよ、 じわじわと両文化の融合が加速しつつあります。その過程で日本のものは徐々にアメ リカ風にアレンジされてくるでしょう。例えば、とうふに醤油や鰹節などをかけてそ のまま食べることなど彼らには思いもよりません。チーズケーキ風のデザートに変え たり、何かを入れてジューサーにかける、リコッタチーズのかわりにラザニアに入れ る、サラダにもまぜたりなど、ぼくらがもっている豆腐のイメージは完全にくずれて います。アボガドが入った「カリフォルニアロール」は西海岸州でできたアメリカ人 向けの寿司ですが、日本に逆輸入されているようですね。
今日の最後に、絶対に真似て欲しくなかったバカなアメリカ文化について一言。グラ フィーティ、つまり落書きのことです。日本には年に平均2回ほど短期間帰ってきて いましたが、7,8年前までは日本では見たことのなかった落書きを東京の電車の窓 から見てまさしく愕然となりました。ここまでコピーされるのであれば、犯人にはアメリカ並みに罰金プラスその一帯の掃除と壁塗りの罰を与え、ついでにシンガポール並みにむち打ち刑でもちらつかせれば、なくなるかもしれません。
日本で報道されたかどうか知りませんが、94年当時高校生だった18歳のマイケル・ フェイがシンガポールで駐車中の車2台にペンキスプレーをかけた罪で捕まった事件 がありました。そのとき、クリントン大統領は弱い調子で彼の免罪をシンガポール政 府に申し入れましたが、結局罰金3500ドル、4ヶ月の刑務所生活と6回のむち打 ち刑に処せられたことがあります。むち打ち刑は当然という意見の方が「シンガポー ルは野蛮」という意見を上回ったおかげで、アメリカの良識が保たれた事件となりま した。ぼくの住む街ではあれから少しは落書きは減ったような気がしましたが、やは り大迷惑なそれはやみそうもありません。
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(25)