SHIN'S ESSAYS(エッセー集)

2002年 5月 2日

NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(2)


■ NHKの新番組 
NHKの番組「さくら」には日米の異文化現象がたくさん。長年海外に住むと日 米間に横たわる不可思議な違いを発見します。そんな話題を番組の中から拾っ てお話しします。

「ハグ」と笑顔 

番組の主人公のさくらがニコニコ歯を見せて笑っているのが印象に残りませんか?

  本当にアメリカの人はさくらと同じように笑顔を作るのが上手です。「作る」と言ったのは、もちろん心から出てくる笑顔と愛想笑いの笑顔があるからですが、日本人ばかりでなく作り笑いはどの国でもあります。
  ただ、面白いことに日本では昔「男が歯を見せて笑うとは何事か!」と恫喝されたそうですが、それはアメリカにはないようです。
 ぼくは中南米とアメリカ合衆国の滞在を合計すると 18年外国に住んでいるのですが、今でも写 真を撮られる瞬間「どんな笑顔にしようか」と考えてしまいます。ところが、あちらの人は実に笑顔がさまになっていて、軽くニッと笑ってパチリとカメラに収まるのはまるで俳優なみです。
  妻とぼくの笑いはいつも凍っていて、不自然で、とくに年を重ねるごとに写真にとられるのがいやになってきています。

 98年。長野の冬季オリンピックの頃です。その時、アメリカのテレビ番組で競技ばかりか日本文化や生活なども紹介していたのですが、ある日こんな面 白いシーンを見る機会がありました。

  テレビの総司会者が、「視聴者のみなさん、日本人はきまじめで笑わないと思っておられるのではありませんか?」と言って、テレビは道行く日本人たちを映し出しました。確かに、みんなブスッと怒ったような顔で忙しげに歩いています。そこで司会者が、「しかし、ご覧下さい」と言うと「ハーイ、コンニチワ」とカメラマンかだれかが声をかける画面 に変わります。

  声をかけられた日本人はだれもが「こんにちわ!」と破顔し頭を下げます。司会者は「どうです。素敵な笑顔でしょう」と日本人の隠れた笑顔のすばらしさと外国人にとても親切な国民であることを視聴者に訴えたのです。

  日本人としてとてもうれしい一瞬でした。 確かにアメリカ人の日本人感は「まじめな国民」というのがあります。さくらが「どこにいるのよサムライは!」と言うセリフがあったと思いますが、多くの外国人はまだ「ゲイシャガール、ハラキリ」の世界を想像して日本にやってくるようです。 自国にない異国情緒をいつも夢見てやってくるのです。 ですから、特に京都が外国人に好まれるのも無理はありません。

 多くのアメリカ人が持っている日本人イメージは、邦画、とりわけ黒沢明監督の「七人の侍」から始まってアメリカで大ヒットしたテレビシリーズ「将軍」でセメント化しました。芸者の一生をつづったArthur S. Goldenの「メモワーズ・オブ・ア・ゲイシャ(Memoirs of a Geisha)」が2年前からベストセラーとなり、スピルバーグ監督が映画化すると言われているこの小説もノスタルジックな日本へのあこがれがたぶんにあると思われます。

  半世紀近く前、海外に移住した日本人はいったん外国に出れば二度と祖国の土を踏めないという覚悟でしたから、外国に住みはじめるとそれまで苦しかった日本での生活はすべて忘却の彼方にあり、楽しかったことばかりが仲間内で語られ、やがて子供、孫、ひまごへと語り継がれていきます。ですから、日本にいる日本人よりも言葉づかいも昔のままのことが多く、とても丁寧で、日本の今頃の若者が使えないような敬語や謙譲語をなんなく使える場合があるのです。 まさしく「さくら」の中で主人公にそれを表現させていて感心しました。

 笑顔の話をもう少し。アメリカの国内でも笑顔地域差があるのはご存じですか?アメリカはご存じのように日本の24倍ほどの国土なので6つの時間帯(time zone)に分かれています。東部、中部、山岳部、太平洋沿岸部、アラスカそしてハワイ・アリューシャン時間帯です。 ぼくはオレゴン州、つまり太平洋沿岸部に家があります。カリフォルニア、ワシントンもオレゴン州同様、太平洋岸に沿った州です。 ここに共通な笑顔現象があるのです。太平洋沿岸部州の人は初対面の人にでもとろけるような笑顔で親しく話してくれます。

  長年この太平洋岸州ばかりを旅行していたので、この笑顔はアメリカ人全体の特徴かと思っていました。ところがある時、仕事で東部のボストンへ行ったところ、驚いたことに、期待していたような笑顔になかなか出会えないのです。大都市にありがちな「他人に無関心」かとも思ったのですが、ロス、サンフランシスコ、シアトルだってボストンと同じ大都市。どの都市でも接客や小さな路地で出会う見知らぬ 人は笑顔で道を教えてくれました。

  ぼくの住むユージーンという町は、わずか13万人ほどの人口ですが、買い物で10分間歩いていく間にすれ違う人たちはかならず目を見てニコッと笑うか「ハーイ」と言って別 れるのです。「袖ふれあうも他生の縁」。ふれあう袖はありませんが、「ハーイ」という一言は袖以上の効果 があります。これこそぼくにとっては良きアメリカなのです。

  ともかく、このユージーンは特別中の特別なのかもしれませんが、多くの日本人の友人で他の都市に移り住んだ人たちの感想を聞いても似たような体験談をしてくれたのでぼくの偏見ではないと思います。

 さて、 そのボストンのことです。マサチューセッツ工科大学を訪れたとき、ある日本人の研究者にぼくが西海岸から来たことを告げると「うああ、懐かしいですねえ。あちらに帰りたいなあ」とため息混じりに言いました。その理由を尋ねると「3ヶ月間ほどロスに住んだのですが、みんなすぐに打ち解けて、フレンドリーで心が安まる思いでした。ここではなかなか友達を作るのが難しくて…」と言うのです。

  あとで、ニューヨークやボストンに長年住んでいる日本人や他の国から来ている人たちに尋ねるとやはり同じような返事でした。とくに、主人公のさくらが住んでいるハワイは年中暖かく過ごしやすい場所なので、性格も明るい人が多いようです。英語の発音にもハワイ独特のほんわかとしたイントネーションがあって、ちょっと話すと米本土の人ではないと分かります。

  オレゴン大学の院生時代に日本語の助手をしたとき、最初から最後まで親しかったのはほとんどハワイ出身のアメリカ人たちでした。トロピカルな気候がさらにフレンドリーな性格形成に影響したのでしょう。本当にきさくなつきあいやすい生徒ばかりでした。

  それから、さくらがうれしくなるとやたらと人に抱きつきますよね。気づかれましたか? 最近、日本のサッカーゲームなどを見る機会があるのですが、点数が入るとみんなで抱き合う(ハグ(hug))光景を見ます。あれはよくアメリカの映画でもあるように、親しい人に対する自然な挨拶です。日本では何年ぶりにあっても頭を下げ会う友人、親戚 を見かけますが、あちらだったらハグして犬猫並に舐めあうかと思うくらい頬を寄せ、背中を叩いて喜びを表します。ですから、日本からの留学生がホームステイ先の家族の皆さんにハグされて顔を真っ赤にしているのを見るとき、ほほえましい気がします。

  アメリカ合衆国ではありませんが、中南米のドミニカ共和国でぼくが10歳の時ソフィアローレン並に大きな口をした美しい先生にハグされ、初めて母親以外の女性にほっぺたにチューされたとき、血が頭に上った記憶があります。「ハグ」習慣のない日本人なら当然な感情なのかもしれません。


NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(2)

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