SHIN'S ESSAYS(エッセー集)
2002年 5月 27日 (月)
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(18)
■ NHKの新番組
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。
「スピーチコンテスト」
番組「さくら」の中で、英語のスピーチコンテストの話がありました。コンテ ストは受験に関係ないし、学力低下につながるからと敬遠する生徒たちや母親 たちの姿を描きました。
作者の田渕久美子さんは番組のいろいろなところに日本なら起こりそうな設定 を考えられていて番組をさらに面白くされていますよね。 ここで、「日本なら起こりそうな設定」と書きましたが、実はこれに似たこと がぼくの日本の高校時代にあったのです。
ぼくが卒業した高校は東筑高校といって福岡県北九州市にあります。昔からば りばりの進学校で、第一次ベビーブーム、大学入試の競争率が10数倍はざら にある時代にその学校に通 いました。大学受験に打ち勝つにはテストと朝夕の 補習クラスの連続でした。受験校は今も変わらないでしょう。ただ、当時は今 ほどプライバシー云々が取りざたされなかったので、学校の職員室前の廊下に 2年生と3年生が合同で受けたテストの成績順位 表が実名つきで貼られ、「あ の2年生が3年生よりも良い点を取った」などと話題になるケースも希ではあ りませんでした。(もしかしたら今でもそれをしている学校があるかもしれま せん。アメリカではもちろんこんなことはありませんし、名前は絶対に出しま せん。オレゴン大学のぼくのマルチメディアクラスをとった学生の成績はイン ターネットのぼくのホームページに生徒番号で宿題やレポート提出等の点数リ ストをだして、生徒自身がいつでも自分の状態が分かるようにしたことがある くらいです。)
さて、そんな高校にいたのですが、ある日「高校生によるスピーチコンテスト の募集」を新聞で読んだのです。文法はまったくだめでしたが、何年もNHK のラジオ英語会話を聞いていて話すことは好きでしたのでさっそく応募しまし た。高校2年の時で、その頃は英検2級に合格していました。
文法的にもまったくできていないへたな文を一所懸命書いて英語の先生に持っ ていって、チェックをお願いしました。ところが驚いたことに「ノー」と言わ れたのです。あの時、職員室で受けたショックは今でも忘れられません。とて も英語の発音がよく、笑顔をたやさず教え方の上手な先生で尊敬していました から、その先生から「自分にはできない」と言われた言葉に耳を疑いました。 断りの理由は覚えていません。とにかく「できない」の一点張りだったような 気がします。「さくら」の沢田先生と同じ考えだったのかもしれません。ただ、 アメリカに来られた日本の中学、高校の先生方から、日本の英語教師の大半は 受験のプロだが、会話が苦手と伺ったことがあります。ぼくの英語の先生もそ の一人だったのかもしれません。
とにかく、ぼくは落胆しながら、だれかにチェックしていただかないといけな いと考え、友達が通っていたカトリック教会のマザーにお願いすることになり ました。ポルトガル人のマザーから丁寧にチェックしていただき、しっかり暗 記して長崎のコンテスト会場に行きました。しかし、見事落選。確か内容は日 本人のマナーについてだったと思います。審査員の方たちのコメントによれば 内容は悪くないが、身振り手振りのオーバーな話し方が問題だったと言われま した。実は、中南米ドミニカ共和国では拳をあげ、口から泡を飛ばしながらか つリズミカルに熱弁を振るう政治家たちばかりを見ていたので、それが演説の 仕方だと思いこんでいたのです。これが大きな誤算でした。
今から思い返すと、まるでキューバのフィデル・カストロ首相のような身振り 手振りのスピーチで笑ってしまいます。ケネディー大統領の演説を初めて聞い たとき、その静かな話し方に驚いたものです。
まあ、こんな経験があったものですから、「さくら」の中で野口五郎さん演じ る沢田先生が、何かと理由をつけてスピーチコンテスト参加に反対するシーン をみて、思い出したしだいです。
日本人の社交文化でラテン的な部分を見つけました。「飲んだときの無礼講」 が許されるところです。もちろんアメリカではこれは通用しませんよ。(笑) そもそも泥酔している人じたいあまり見かけませんから、なりたちません。 生物学的に日本人はアメリカ人や中国人のようにアルコールを分解する酵素が 少ないことから酔いやすいそうですね。でも、普通 外国の人はそんなことを知 りませんから、パーティーなどで泥酔して失礼なことをすると「日本人は」と なります。
アトランタの学会に出席したときの話です。関西から来ていたB大学教授は大 変英語の達者な方でしたが、酒が少しはいると調子づいてやたらとアメリカ人 女性スタッフに肩を組んだりするのでいやがられていました。もし彼が日本か らの客人でなければ、きっとほっぺたを張り飛ばされ、数日後に裁判所から「貴 方はAさんからセクハラで訴えられているので、X月Y日に出廷せよ」と呼び 出をくらってもおかしくはありませんでした。
怖いのは、本人はみんながいやがっていることに気づかないことです。よほど 日本の大学でみんなが何も言わないのか、あるいは外国に来た開放感がそうさ せるのかもしれませんが、気をつけなくてはいけません。気づかない、ということで気づいた話がもう一つあります。こんどは中国人教授の話です。
どこの大学の教授かは聞いていません。その中国人教授はとても優秀な方なの に、なかなか良いポジションが与えられないでいました。理由は他の教授達か ら推薦されなかったからですが、さらにその理由は彼が食事中にまるで犬猫の ようにぺちゃぺちゃ音を立てるところにありました。同僚のだれも彼と一緒に 食事をしたくなく、しだいに敬遠されて…というわけです。
これを書いている最中に、長年アメリカに住まわれて今は日本で会社を経営さ れている方とお会いしました。そのとき、やはり食事マナーの話が出て、「日 本人にも音を立てて食べる人がいますが、それでビジネスチャンスを無くした 人がたくさんいるんですよ。アメリカじゃなくて日本国内でですよ」と言われ ていました。ああ、くわばらくわばら。
食事マナーがなっていないため、他の客がいやがるという理由でパーティに呼 ばれない日本人は実際に知っています。ましてや、酒の席で起きたことは無か ったことときれいに流す発想は分かってもらえませんので十分に気をつけなけ ればなりません。
最後に、主人公のさくらが体重を気にする場面がありました。ぼくたち一家が 住むオレゴン州は特にのんきな人が多いせいかアメリカでも体重オーバーの人 が多いようです。東京の国際学校に教えにきた知人の奥さんが日本人と比較す るとまるで子猫と虎ほどの差があるので(失礼)、家から出るといつも見られ て笑われるのに耐えきれず帰国したという話を聞いたことがあります。 「今ダイエット中なの」と言いながら1リットル入りのダイエットコークを飲 みながら歩くオレゴン女性をたくさん見て、「うーん」とうなったきり何も言 えなくなったのはぼくばかりじゃないと思います。
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(18)