SHIN'S ESSAYS(エッセー集)
2002年 5月 22日 (水)
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(16)
■ NHKの新番組
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。
「ホームステイと嫁姑問題」
昨日の「プレゼント」の話の続きです。あげたのならまだあきらめもつきます が、「ホームステイは日本人留学生に限る」と大学に登録していて問題になっ たケースをお話ししておきましょう。これはやはり日本人は文句を言わず「仕 方がない」と泣き寝入りしやすい国民だと知っているから起こった小さな事件 です。
ぼくはアメリカに渡って以来、日本のコンピュータと教育関連各誌に記事を書 いていたこともあって、読者の方からオレゴン大学に留学したいという相談を 受けることがありました。その中に日本のある大学で英語講師をしていたAさ んからのメールもありました。再度アメリカで勉強したいので情報を頂けない かというメールでした。ぼくができたことはせいぜいユージーンという街や大 学の事情、治安のことなどを教えてあげるくらいでした。若いAさんは講師を やめてご夫婦で来られました。その時、「日本人留学生希望」のホームステイ 先をキャンパスの掲示板から見つけられたのです。
二人は愛想の良い中年女性(仮にここではベティとでも言っておきましょう) が独りで住む一軒家にお世話になることになりました。しかし、数ヶ月もする とベティの化けの皮がはがれていったのです。Aさんがぼくに相談してきた話 をまとめますとこんな感じになります。
ベティは二人に冷蔵庫を使わせないと言い出したのです。もちろんどの家でも 冷蔵庫は使わせてくれます。他にもベティは急にわけもなく怒りだしコミュニ ケーションができなくなったので、Aさん夫婦は別 の所に移りたい旨をベティ に伝えました。OKと彼女は言いましたが、ダウンペイメント(down payment 頭金)は返さないと言うのでそうです。ダウンペイメントは家を借りた人が 家の中の物を壊したとか汚したときに使ってもらうためのお金で、日本のよ うに自動的に取られる敷金ではありません。
そこで、Aさんに大学お抱えの弁護士に相談するように言いました。大 学キャンパス内に弁護士事務所があって学生なら無料で相談できるのです。さ っそくAさんが相談すると、女性弁護士はすぐに「それはおかしい」というこ とで「警告の手紙」をベティに送りつけました。もちろん全額ダウンペイメン トはAさんにもどりました。さもないと訴訟に持ち込まれたらベティは負ける に決まっていますので、弁護士費用からすべて自分が払わなければならなくな るおそれがあります。
後になって弁護士から聞いて分かったことですが、ベティはベトナム戦争時代 に日本の基地にいたことがあり、日本人のすぐにあきらめる癖を知っていたら しいのです。おまけに独身の彼女は未だにベトナム戦争時の後遺症に悩まされ ているらしく(実はこれに苦しむアメリカ人がまだたくさんいるそうです)、 突然怒り出すのはそれが原因と判明。彼女にとっても不幸なことですが、病気 だからと言ってAさんからダウンペイメントをふんだくる権利はありません。
それでは話を変えて、番組の中から別の話題をひろってみましょう。嫁姑問題 が発生しますね。NHKのこの番組制作者たちはよく考えて日本にありがちな 問題をとりあげていて感心しています。
さて、この嫁姑問題です。沼田家の嫁の筆子が姑であるたねに嫁に来て初めて 言い返しました。 「自分の考えをいっただけだけじゃないですか」とさくらは筆子のことを弁護 してあげますが、たねは「口答え」ととります。これが日本的な捉え方なので しょうね。 一昔前「男は黙ってXXビール」というコマーシャルがありました。日本にい たときはさほど気にとめないコマーシャルでしたが、いったん国外に出て我が 祖国を振り返ってみたとき、「日本は黙っていることが美徳と思う国なんだな あ」とあらためて感じます。とにかく番組の筆子とたねの確執は、嫁である筆 子が母親に口答えするのは「嫁らしからぬ」ということなのでしょう。この 「はっきりものを言う」習慣のちがいは、日米の異文化コミュニケーションに 真っ先に取り上げたいテーマでもあります。もちろん、アメリカ人のだれもが 白黒何でも決着したがるとは限りません。その典型的な例があります。
大学の元同僚の奥さん、ケイさんは実に気配り上手な方で、まるで昔の大和撫 子を見る思いがします。お宅に伺うと必ず素敵な笑顔で、「日本の番茶が良い ですか、それともコーヒーとかティー?」と尋ねられます。彼女はスペイン語 圏に住んだ、つまり海外に住んだ体験をお持ちだから外国人であるぼくたち家 族の気持ちを察して気をつかっておられるのかな、とも思っていたのですが、 他の人たちへの接し方をみているとそうでもなさそうなので、ケイさんの性格 なのでしょう。オレゴン大学のスペイン語講師でもあったケイさんは聞き上手、 心休まる人で、アメリカにもこんな大和撫子のような方がいるんだ、と会うた びに思います。
で、「男は黙って…」の話です。ドミニカから帰国して数年ほどたった中学生 の頃まだ日本の習慣が身に付いていなかったため、ずいぶん誤解を受けました。 何かをして弁明すると「男が言い訳するな」と言われた記憶があります。特に 「九州男児」なる言葉のある九州ですから、「男は黙って…」あるいは「Macho」 的なタイプが好まれるようで、弁明・説明が「言い訳」と取られることにぼく の頭の中は大混乱でした。ぼくの高校の先輩である俳優の高倉健さんはまさし く九州の人間から見ると理想的な「九州男児」なのだと思います。確かに彼は 「男は黙って…」が似合いますよね。
スペイン語も英語もそうですが、まず結論を言って「というのは、XXだから です」とその理由をあとからつけ加えます。ぼくにはその癖が残っていたわけ です。今でも、そんな話し方をして家内によく笑われるのですが、小さいとき に身に付いた言葉の習慣はなかなか抜けませんね。
「不言実行」という日本人が大好きな言葉があります。確かに聞こえは良いの ですが、別の見方をするとずるい考えかたとも見られます。この思想だと、何 をするか明言していなければたとえ失敗しても誰からもとがめられません。ところが、「有言実行」はそうはいきません。いったんやると言ったからには実 現せねばならないため、義務やプレッシャーが生じます。
この辺も日米の文化的な違いで、とにかく「自分は何々の理由でこれこれをす る」とアメリカでは発表することが多いような気がします。
話を嫁と姑問題に戻しましょう。以前にも書きましたが、アメリカでは日本ほ どではないにしても嫁姑の問題はあるでしょう。しかし、子どもに頼らず自分 一人で生きてゆくというのがアメリカの親たちの姿勢なので、いつも顔をつき あわせて暮らしているわけではありません。また、たとえ一緒に住むことにな っても、日本の「母親が作ってくれたみそ汁の味」に例えられるほどアメリカ の母親は料理を作らないので、姑が嫁の作った食事の味に文句を言うすきもな いのです。
嫁姑問題についてまだ少し書きたいことがありますが、それはまた明日。
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(16)