SHIN'S ESSAYS(エッセー集)

2002年 5月 21日 (火)

NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(15)

■ NHKの新番組 
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。

「日本人の贈り物考」

東京にいるさくらのおばあちゃんがホームステイ先の沼田家に土産を持って挨 拶にやってくるシーンがありました。なにかと孫がお世話になるからよろしく お願いしますと頭を下げます。こういうところもとても日本的ですね。

日本の親は我が子のために一生懸命片言の英語を駆使しながらでもホームステ イ先へお礼の電話をしてきたり、手紙を書いてきて実に「情」が深いですね。 我が子が見知らぬ 土地で過ごす親の心配は万国共通でしょう。しかし、先方に 迷惑をかけていないだろうかという「遠慮」の部分になると日本人は世界チャ ンピオンです。ただ、これは見方によっては「日本人留学生はまだ乳離れして いない」と取られますし、子どもが親を頼りすぎるきらいがあり(逆に親が子 離れしていないこともあるわけですが)、これから日本の親子関係はもう少しド ライになって行っても良いのではないかと思っています。

ユージーンの私立高校で日本語を教えていたとき、ドイツ、スペイン、ラトビア(旧 ソ連の一共和国)そして日本からの留学生がいました。ぼくは授業がないとき そんな留学生の自習クラスを見ていたので、彼らの赤裸々な行動や考え方がは っきり分かって大変興味深い現象を見たことがあります。(番組「さくら」でい えば保健室のような存在でした。)

その高校には3年間しかいませんでしたが、その期間中やはり日本人留学生た ちの親だけが来ました。日本人の家庭が裕福だったからというわけではないよ うです。むしろ日本人留学生以外の生徒たちは企業の社長や幹部の子息で、中 にはトローリングができるヨットを持っているという子もいました。

そんな子どもだけで比較するのは危険なことを充分承知した上でお話をします と、ドイツ人(1)と日本人(2)はすぐに仲が良くなり、ラトビア人(1) の留学生はなかなかみんなに溶け込まず、スペイン人(3)は徒党を組みまし た。昔からドイツと日本国民は国民性として似ているとは聞いていましたが、 どこか両国民に共通 する精神構造があるのでしょうか、高校生たちの間にもそ れを見たのでおかしく思ったものです。ドイツの子は気性が激しく、だれから も敬遠されていたようです。日本人留学生たちは当たらず触らず。いつもにこ にこして中間的な存在。悪く言えばいてもいなくてもわからない存在でした。

ラトビア人留学生は長い間ソ連に支配されていた国から来ているのでロシア語 しか話せませんでしたが、いつもロシアの悪口を言っていました。彼らの旗に アズキ色が多いのはロシアへの抵抗色なんだそうです。お父さんのビジネスの 跡を継ぐから英語が必要だと頑張っていた彼はいつも暗く悲しい顔をしていて 留学生のいじめの対象になりがちでした。ぼくはそんな彼を励ます立場にいた ので、よくお国事情を聞かせてもらったものです。

逆にとてつもなく明るいのはスペイン人留学生たち。ラテン系に共通 ないたず ら好きの女の子好きで、格好良さを気にしながらも、非常にやることが子ども っぽく、しかし憎めない悪ガキ連中ばかりでした。まあ、そんなインターナシ ョナルな高校生たちでしたが、話を戻しますと、前述のように親が高校に視察 に来たのは日本人だけ。これは高校生に限らず大学生もだいたい同じです。た だし、卒業式は別 です。日本のそれよりずっとにぎやかな卒業式には高校でも 大学でも世界の隅々から両親が馳せ参じます。日本はどちらかというと入学式 にフォーカスされているような気がします。難しい受験地獄を通過する日本の 入学システムに対し、あちらは難しい日々の授業を通 過して卒業するのですか ら、当然ここにも日米逆現象が見られるわけです。

そんな時、やはりお世話になった方にどの国の人もプレゼントを持ってきます。 しかし、ここでも日本人は度が過ぎたプレゼントを持ってくる傾向があります。 まるでお中元とお歳暮を同時にするような、日本人から見るとそれほど大した 物じゃないかもしれませんが、アメリカ人から見れば高価でゴージャスな贈り 物なのです。中には日本の高価な飾り物を持ってくる人もいますが、やがて土 日のガレージセールで売られることになるかもしれません。

皆さんにもありませんか、こんな経験。親戚の人がお土産を持ってきてくれた のは良いのですが、熊の彫り物や産地のネームの入った人形や刀。中高生の修 学旅行土産なら旅行先の金銀メッキ仏像やキーホルダーなど。小物ならまだど こかにしまっておけますが大きい物だともらった方も困ってしまうことがあり ます。

日本文化に興味を持っていたり、芸術を好むアメリカ人なら感動が違うかもし れませんが、そうじゃない人に土産を持っていくのはとても難しいですね。こ んなことを言うつもりで書いていたわけではないのに話がまたそれました。要 するに、日本人は高価であれば相手が喜ぶと錯覚しているところがあるのでは ないかと言いたかったのです。

アメリカの映画をごらんになると気づかれると思うのですが、誕生日やクリス マスプレゼントは日本円で言うと数千円のもの。ましてやお土産など持ってい かないケースはざらで、むしろお土産より近所で買ってきた花束や一緒に食べ る食料品を持ってくることの方が多いようです。また誕生祝いなどはジョーク 商品を買い、大人同士なら数ドルのもので充分OKです。

このあたり、我々日本人は昔からお中元、お歳暮、入学祝い、卒業祝い、出産 プレゼント、クリスマスに正月、おまけにバレンタインデーまで加わってのチ ョコレートプレゼント合戦とそのお返し合戦。葬式の香典や結婚式のお祝い。 それに対するお返し。もう目まぐるしい限りです。日本経済の活性化に大貢献 ですが、これがアメリカ並に少しシンプルになればどれほどみんな気分的に楽 になることでしょう。

ただ、このプレゼント合戦にもまたまた大きな違いがあることに気づきました。 日本人のプレゼントは身内によりも身内外の人に対してのプレゼントの方が豪 華じゃないでしょうか。少なくともわが家はそのようです。自分の家では食べ たことの無いような果物などをお中元、お歳暮で送ることがありましたし、渡 米する前、盆と暮れには塾の生徒の親たちからお届け物があったものです。と ころが、アメリカではそれが逆ですね。よその人にはまあまあのものを送り、 自分の妻、夫、親、子ども、親戚 には高価なものをプレゼントしていると思い ます。これは日本人の「外面が良い」という文化的な差異からくるのかもしれ ません。

「こんな日本人の習性を知っているアメリカ人に気をつけた方がいいですよ」 とアドバイスをしてくれた方がいました。ぼくより長くアメリカに住んでいる その方は、 「峯さん、日本人はほめられるとすぐに自分の持ち物をあげる癖があるのよね。 それを知っているずるいアメリカ人が近寄ってきて、良いですねを連発するこ とがあるの。でも、その手に乗っちゃダメよ。私も知らないときはさんざんあ げてしまったんだから」。 そんなアドバイスを聞いて以来、注意した方が良いという人物を観察したこと があります。一、二回なら普段誰でも誉めるかもしれませんが、会うたびに人 の持ち物をべた誉めする人でした。

その米人夫婦はわが家の玄関にかけてある般若心境を書いた掛け軸をしきりに 誉め始めました。それは伯父が書いてくれ大事にしているものでした。 「これは私たち一家が日本に引き上げるときに一番お世話になった方にあげる つもりです」とその掛け軸のことを説明していたので、永住してしまった今と なっては言わなくなりましたが、事情を知らなかった在米1年の方は、売るつ もりで持ってきていた仏像をとうとうあげてしまいました。その米人宅に伺う と日本人からのプレゼントがたくさんあって驚いたものです。

まだまだ、日本人の性質を知っている米人から騙されそうになった話もありま すので、それはまた明日。


NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(15)

【前号へ】【次号へ】

【BACK】