SHIN'S ESSAYS(エッセー集)
2002年 5月 14日 (火)
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(10)
■ NHKの新番組
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを18年間(アメリカと中米)に在住した体験を通して話していきたいと思います。
「ああ、離婚」
さくらが下宿する沼田家に名古屋に嫁いでいた長女、みどりが幼い子供を連れ て戻ってきました。ご存じのように、アメリカの離婚率は世界最高で、50% 以上です。念のためにこれを書くために調べてみると、ぼくが知っているアメ リカ人たちの6割以上が離婚経験者でした。そんな社会ですから、日本では聞 かれないような会話が子どもたちの間から聞こえてきます。
まだ渡米して間もない頃の話です。リゾート地にスキーに行ってホテルの温水 プールで泳いでいたら小学生の女の子がぼくたち家族に、
「どこから来たの?」
と話しかけてきました。これがきっかけで会話がはずんだのですが、その時、
「お父さんはどこ?」
と妻が尋ねました。
「Biological fatherはロスにいるけど、お母さんのボーイフレンドは今いっしょ に住んでいる」
と意外な返事。 最初は、
「biological fatherとは生物学上の父親という意味、ずいぶんませたことをいう 小学生だなあ」
と驚いたものです。しかし、あとから知ったのですが、biological fatherは「実 の父」という意味でした。その女の子です。聞くと彼女は小学校4年生。あっさりと「お母さんのボーイ フレンドは…」と語る子どもの心情はどうなんだろう、と考えさせられた最初 の経験でした。
それから12年近くたった今、もう珍しいとは思わなくなりましたが、そんな 子どもに会うとまだまだ複雑な心境になるのは変わりません。実際、子どもた ちには他人が思う以上に大きな影響が与えられるために、ある新聞のデータで アメリカの高校生の自殺率が一番高いのは両親が離婚している家庭でした。さて、ドラマの中です。沼田家の娘がさくらに、 「ここにいると何でもすぐに近所中に知れ渡る」 と言って、早く自分が住むあの町から出たいということを言いました。人間誰 でも噂は好きなようで、アメリカでももちろん噂好きな人はいます。ただ、も し噂されている当事者がその噂のせいで大きく傷つくような場合はすぐに 「sue」つまり訴訟を起こされることがあるのでみんな非常に慎重です。また、 アメリカの方が日本ほど近所の噂が少ないのは、隣近所のことを気にしないと いう国民性にもあります。つまり近所の人とおつきあいしないことが非常に多 く、ぼくたち一家が渡米当初からおつきあいしているご近所さんのことを他の アメリカ人に話すと「まあ珍しいですね」とみんな一様に驚くのにこちらが逆 に驚いたことがありました。
近所付き合いが悪いからと言って別に仲が悪いわけではありません。ただ、近 所の人たちのプライバシーを大事にする、ということです。会えばニコッと笑 って「ハーイ」と言いますし、自転車が盗まれれば、 「近所に泥棒が入ったそうだから気をつけて」 と注意しに来てくれます。これは「Neighbor Patrol」という「隣近所を監視し ている地域ですよ」という警告看板をしていることの実践ということでしょう か。町の辻にときどきこの看板を見るとなんとなく安心します。 近所といえばぼくたち一家がオレゴン州ユージーン市に引っ越したときのこと です。引っ越した翌日の朝、玄関ドアがノックされたので出るとクッキーの入 ったペーパープレイト(紙皿)を手にした背の高い白人女性が笑顔で立ってい ました。その横には小さな男の子が今にもその人の後ろに隠れそうな感じで立 っていました。
「Welcome to our neighborhood!」(ご近所にいらして歓迎します。引っ越し おめでとう!)
とその人は元気な声で歓迎してくれ、自分たちの名前とどこに 住んでいるかを紹介してくれました。西も東もわからないころでしたから、本 当にうれしく、本来なら引っ越してきた僕たち一家が挨拶をしなければいけな いのに…、と思っていたぼくと妻は大感激でした。ところが、住み慣れるに従 って分かったことなのですが、日本とは逆で、引っ越してきた人の所へ近所の 人が挨拶に行くのがアメリカの慣わしだったのです。「朝食を家族そろって食べられる」とさくらが喜ぶシーンがありました。日本 のドラマを見ていると、よく家族一緒に食事をしているシーンがありますが、 これも日本らしいですね。昔は当たり前だったこんなシーンが最近の家庭では 見られなくなりつつあるそうで残念です。それでもアメリカと比べるとまだま だ多いのではないでしょうか。とにかく夫婦共働きは常識の国。富める国にな ればなるほど何事にも贅沢になり、夫婦共働きが当たり前となって子どもにし わ寄せがいき、やがて家庭崩壊につながる。こんな「共働き連鎖」が時代が進 むに連れて起きていることは実に残念で仕方がありません。日本のGNPの何 十分の一というドミニカ共和国の大家族が貧しくとも楽しそうにメレンゲを 踊りながら暮らしている姿を見ると、「家族の幸せってなんだろう」と考えさせ られます。
ぼくの妻はアメリカの甘くて、油っぽい食事が健康にもよくないと、「なにがなんでも日本食」という執念で現地の材料で日本食を作ります。家族みんなは感謝感激で、全員で一緒に食事をするのが当たり前の光景なのですが、アメリカの友人たちの多くが妻が1時間近くかけて夕食を作るのを、まるで「パーティー食を作っている」という感覚で受け止めているようです。
こんなことを言うとアメリカ人から叱られますが、「手抜き料理」が上手な国民 ですね。これは建国200数十年の国で、食文化の大きな違いからくることで、 別 に彼らがダメだというわけではありません。最近は中華以外に、日本食、ベ トナム、韓国、中近東などのレストランが増えたので、バラエティーに富んで きていますから、徐々に家庭にも違った味が加わってくることでしょう。
日本人留学生がホームステイして食事のあまりの貧弱さに、「自分は大切に思 われていない」とか「ケチな家」と誤解することがしばしばあるのもこんなお 国柄の違いがあるのかもしれません。ですから、アメリカに行って4品以上の 食事が出たらそのお宅の奥さん、あるいはよくご主人も料理しますのでその時 はご主人ですが、とにかく誉めて感謝しましょう。
「夕食ですよ」と呼ばれて食卓に行ったら「スライスポテトの上に溶けたチー ズ、それに水」だけだったとホームステイした学生が話してくれたことがあり ます。こんなことは日常茶飯事ですから、日本の夕食や来客に振る舞う日本風 の食卓を絶対にイメージしないことが、アメリカを好きになるコツの一つだと 思って下さい。
最後に、ドラマの中でさくらが「There is no place like home.」と言った後「住 めば都」という解説がありましたが、ちょっと意味が反対なのではという意見 がぼくの家族の中でもちあがりました。英語の意味は「家ほど良いところはな い」と言う意味で、一番有名なのは「オズの魔法使い」というアメリカの映画 の中で主人公のドロシーが家に帰ってきたとき言うセリフだったと記憶してい ます。でも「さくら」ではよその土地に住みはじめて「住めば都」というわけ ですから、まったく逆の立場になります。つまり、自分の家がある所ではない けれども住めば良くなってその場所が家になるという意味だと思います。です から、ここでは本当は「Once you live in a place, it grows on you. 」とか 「Home is home though it never be so homely.」などという表現が良いので しょう。ただ、短い時間に言わないといけないセリフだったので、 「住めば都」と訳したのかもしれませんね。
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(10)