SHIN'S ESSAYS(エッセー集)
2002年 5月 1日
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(1)
■ NHKの新番組「さくら」がスタートしてからちょうど一ヶ月たちました。
あのドラマの中で起こる様々な事がらから日米の文化・習慣の違いをたくさん学ぶことができます。 そんな違いを13年間のアメリカ在住体験を通してお話ししていきたいと思います。
「訴訟好きなアメリカ国民」
4月11日の場面の中に先生が酔っぱらってダンスをしようとしてさくらに 触る部分がありましたね。 アメリカであんな事をすると本当に訴えられても おかしくありません。とにかく、2億人総訴訟の国ですから、 みんなびくび くしている部分があります。負けたら財産がいっぺんで吹っ飛ぶほどとられることがありますから。
訴訟といえば、ハンバーガーショップ関連で思い出す訴訟問題が2つありま す。一つは、「店員が持ってきたコー ヒーで唇をやけどした」と客が訴えまし た。このあと、どの喫茶店でも出されるコーヒーはもうフーフー冷やさなくても飲めるくらいの温度で飲み物が出るようになりました。
もう一件は肥えた人が「店のイスが小さすぎて座れなかった。これは人権侵 害だ。差別だ」と店を訴えたことです。 その結果は知りませんが、そんなことで訴えるのかと驚いたことをよく覚えています。まあ、新聞に載るくらいです から、めったにない話なのでしょうが。
訴訟問題でこんな古いケースがあります。家の前の歩道に氷が張られていた ために滑って転んで怪我をしたのは、その家の持ち主が夜水をまいていたか らだということで訴訟人が勝ちました。
数年前の話です。ニューヨークのホームレスの人が図書館に入った ら「あなたは入ってはいけない」と断られ、 市から人権侵害だとして数千万円 の慰謝料をもらいました。その人は他のホームレスのためにそのお金で家を建 てたとして美談になりました。
ついでのついで、アンビリーバブルな話です。
お父さんが幼い娘を車に乗せ て運転していました。ところが、衝突事故。後部座席に乗っていた娘はシー トベルトをしていなく、大けがをしたのです。ここから新聞に掲載されるよう な信じられないようなケースに発展します。
なんと、父親は幼い娘さんから訴えられたのです。もちろん金儲けをしたい 弁護士の悪知恵です。保険会社から補償金をふんだくれると思ったのでしょ う。お父さんが訴えられた理由は、「子供が怪我をしたのは、運転していた父 親が子供にシートベルトを着用させる義務があるのにそれを怠ったため」でした。
もし子供が勝てばそのお金は最終的には父親の懐に入ります。最終結論は知 りませんが、「これまでしてお金が欲しいのか」と開いた口がふさがりません でした。さて、話を「さくら」に戻しましょう。日本の文化を色でたとえると「グレ イ」と表現できます。つまりアメリカ人の好きな原色ではなく、白でもなけ れば黒でもない、あいまいな色ということからそう例えられることがあります。
クリントン前大統領が「日本人のイエスはノーという意味」とある会談で言 ったといって日本のマスコミが「日本人をばかにしている」と騒いだことが あります。しかし、中学校の英文法でも習ったように、否定疑問文、例えば 「Don't you like it?」と聞かれ嫌いなら「No, I don't」と否定形で答え、好きな ら「Yes, I do.」と答えます。しかし日本語の場合、嫌いなら「はい、嫌いです」、好きなら「いいえ、きらいです。」となります。つまり、「Yes, No」の ところで、混乱が生じるわけです。
もう少しかみくだいて言うと、少なくと もゲルマンやラテン語系の言語はNoと否定すれば最後に、「don't」と同じ否 定文がくるのに、日本語は先に否定して、最後で肯定するという構造になっ ているから「アレレ?」と向こうの人たちは思うのです。一番これで混乱しやすいのが、「Don't you mind my smoking?」(たばこを吸っ てもいいですか?:直訳すれば「私がたばこを吸うことをあなたは気にしま すか?」)という会話です。
もしたばこを吸って欲しくなければ「はい、気にしますので、吸わないで 下さい」と「Yes, I do mind.」と言わなければなりません。もし吸って欲しく なければ……。そうですね。「No, I don't mind.」もっとくだけて「No, not at all.」 と言います。この表現は、かなり英語ができると思っている人でも間違えやすい 表現の一つです。もう一つ、あいまいさの話です。日本人と欧米人の「他人を思う気持ち」の 違いです。我々日本人の断り方は非常に曖昧なので、 ここで誤解が生じるのです。ダメなときはダメと断ればいいのですが、断ったら相手に悪いと曖昧に「I'll do my best.」(最善を尽くしま しょう)とその場を逃げてしまう傾向が あります。これは相手に期待を与えるだけで、決して解決にはなりませんから気をつけて下さい。 結局できなくて「あの人はベストを尽くすと言ったの に、何もしなかった。大変なうそつきだ」となるわけです。
4月12日の番組に、日本人の心を知るためにお茶くみをさくらがし始めまし た。実はアメリカでもお客さんにコーヒーや紅茶を事務所で 振る舞う場合があります。でもそれは社員の義務ではありません。ですからもし「コーヒーでも、 いかが」とアメリカの事務所で尋ねられ 持ってこられたら「ラッキー」です。 普通は「コーヒーが欲しければあそこにあるよ」と指さされて自分でとりに ゆくことが多いようです。 でももし会社で「君は新入社員だからコーヒーをいれてみんなのために持ってくるのは当たり前」とでも言えば、訴えられて、ハ イ数百万円
あなたの懐からサヨーナラ。そう思うくらい慎重に対応しなければ いけません。
そのへんのところがわからない日本人は、外国で会社を始めたときは大変なようです。私のずっと年輩の方に某日本企業の社長になった方が いるのですが、 「一番気をつかうのはセクハラ問題だった」と告白してくれました。さくらがソバをすすって食べる練習をするシーンがチラッとありましたね。 ぼくは日本人がソバやうどんを音をたてて食べるのはとても賢い習慣だと信 じています。あれは、熱い麺類を食べるとき冷たい空気を一緒に吸うことによって、唇と 麺の間に隙間を作りやけどをしないで食べやすくするための智恵なのです。
もし外国人が麺を食べる場面に出くわしたら失礼のないように観察してみて下さい。モグモグと麺を唇ではさんで熱そうにゆっくり食べていますから。20数年前の話です。神戸の屋台でインターナショナル・スクールに通 う白人の高校生たちが並んでうどんを食べていました。ぼくは屋台のおやじさんに 「へえ、外国人がうどんをこうやって食べているのを見るのは初めてですよ」 と話しかけたら、「いえね。食べるのが遅いんで次のお客さんが入れなくて困るんですよ」と顔をしかめて屋台のおやじさんが言ったのを思い出します。 まあ、屋台のおやじさんとしては早く回転させたかったのでしょう。今なら その気持ちがわからないでもありません。とにかく、外国人の高校生たち全員 がもぐもぐと唇に麺を挟んで熱そうにゆっくり食べていた光景はとても印象に、 残っています。
そんな体験があったものですから、アメリカのわが家の近くに日本のラーメ ン屋ができたとき、アメリカの友人一家をさそってその店に食べにいきました。 そこで、日本の麺類を食べるときの「ズルズル作法」とその意味を教えるとな るほどと納得してくれました。でも、やはりどんなに頭の中で理屈は分かって いても食事中に音を出すのは大変失礼で不作法というのが幼い頃から染みついている彼らですから、ラーメンを音をたてて食べることは絶対にできませんで した。
ぼくが日本に来て大好きな熱い麺類を食べるとき、大きな音で周りに遠慮せずズルズルと麺をすするとき、最高に幸せな気分になります。きっと番組の 中のさくらはいつかその気分が分かる日が来るのでしょう。
NHK「さくら」の中の異文化コミュニケーション(1)